fengari の使い方 (Lua を Web ブラウザで動かす方法)
Lua を Web ブラウザで動かす技術がいくつかある。 最初期のモノは lua.vm.js だろうか?
ただ lua.vm.js は開発が停止してから 4 年経過しており、今から使うには躊躇する。
そこで、今回は fengari の使用方法について書くことにする。
<https://github.com/fengari-lua/fengari>
なお、lua.vm.js の issue にも、次のように fengari の使用を推奨するコメントがある。
Please consider using the successor to lua.vm.js, fengari
<https://github.com/daurnimator/lua.vm.js/issues/66>
fengari とは
fengari は、 Lua VM を JavaScript で書いているプロジェクトだ。
emscripten を使うことで、 オリジナルの Lua VM をほぼそのまま WebAssembly に変換可能だが、 fengari は WebAssembly ではなく JavaScript でポーティングしている。
実行パフォーマンスは、WebAssembly の方が有利だろう。
今回あえて fengari を取り上げるのは、次の理由からだ。
- 私自身に emscripten の知識が無いため、 JS だけで完結する fengari の方が emscripten よりもハードルが低かった
- 今回やろうとしていることに、それほど実行パフォーマンスは必要ではなかった
-
自分の環境の glibc のバージョンが古くて emscripten をインストールできなかった
- docker を使ってまで emscripten をやるモチベーションがなかった
fengari の github
fengari は、次の URL で開発されている。
<https://github.com/fengari-lua/fengari>
一方で、Web ブラウザで fengari を動かす場合は、次の fengari-web を使用する。
<https://github.com/fengari-lua/fengari-web>
さらに、 fengari の Lua VM と JavaScript とを連携するため IF を提供する fengari-interop がある。
<https://github.com/fengari-lua/fengari-interop>
なお fengari-web のライブラリは、 fengari と fengari-interop を含んでいる。
fengari-web の使用方法
fengari-web を使用するには、 次の URL から fengari-web.js を落し、
<https://github.com/fengari-lua/fengari-web/releases>
次のように HTML に組込む。
<script src="fengari-web.js" type="text/javascript"></script>
これによって、 JavaScript から fengari のシンボルを通して Lua VM IF にアクセスできるようになる。
もっともシンプルに fengari を使うには、次の通り fengari.load() を利用する。
console.log(fengari.load('return 1+1')())
fengari.load() は、ロードした Lua スクリプトを実行する関数を返すので、
スクリプトを動かすには fengari.load()()
となる。
ただし、この方法だと Lua を Web ブラウザ上で動かそうという物好きがやりそうな Lua の細かい制御を実現出来ない可能性が高い。
そのような細かい制御は、 fengari が提供する Lua VM IF を使用する必要がある。
Lua VM IF は、 fengari が独自に提供しているものではなく、 Lua VM が元々提供しているものである。 fengari Lua VM IF は、オリジナルの Lua VM IF をポーティングしたもので、 その仕様もオリジナルのものを引き継いでいる。
fengari の Lua VM IF を使用したサンプルを次に示す。
var lua_state = fengari.lauxlib.luaL_newstate();
fengari.lualib.luaL_openlibs( lua_state );
fengari.lauxlib.luaL_requiref( lua_state, fengari.to_luastring("js"),
fengari.interop.luaopen_js, 1);
fengari.lua.lua_pop( lua_state, 1); /* remove lib */
Lua を C に組み込んだ経験を持つ人なら、ぱっと見ただけでだいたい検討が付くだろう。 fengari.lauxlib などのシンボルを除けば、 Lua VM IF そのものだ。
つまり、 JavaScript 上で Lua VM IF を書くことで、 Lua コードを Web 上で制御できる。
Lua VM IF の詳細については、 fengari ではなく Lua のリファレンスを確認する必要がある。
<http://milkpot.sakura.ne.jp/lua/lua53_manual_ja.html#4>
Lua VM IF を見慣れている人なら気付いたかもしれないが、 上記の fengari Lua VM IF のサンプルには、 通常の Lua VM IF の初期化コードにはない処理を行なっているのが分かると思う。
fengari.lauxlib.luaL_requiref( lua_state, fengari.to_luastring("js"),
fengari.interop.luaopen_js, 1);
これが何をやっているのかというと、 fengari-interop パッケージを Lua VM 内の js シンボルにセットしている。
fengari-interop は、 Lua VM と JavaScript とを連携するため IF で、 次のようなコードを Lua で書くことで JavaScript のリソースへのアクセスを提供するものだ。
js.global:alert( "hoge" ) -- javascript の alert()
ここで注意すべきは、
js モジュールの関数コールを .
ではなく :
によるメソッドコールにするということだ。
fengari-web Lua VM IF の使用上の注意
fengari-web Lua VM IF と JavaScript とでデータをやり取りする場合、 注意が必要なケースがある。
JavaScript から fengari-web Lua VM IF に文字列を渡す
前述の通り、fengari.load() は下記の様に使用する。
console.log(fengari.load('return 1+1')())
この fengari.load() と似た動きをさせる fengari-web Lua VM IF を次に示す。
var txt = fengari.to_luastring( "print( (function() return 1 + 1; end)() )" );
fengari.lauxlib.luaL_dostring( fengari.L, txt );
-
fengari.lauxlib.luaL_dostring() は Lua VM IF の API で、指定のスクリプトを実行する。
- luaL_dostring() の第一引数は Lua VM の lua_State で、 fengari.L は fengari がデフォルトで使用する lua_State である。
- fengari.L の代わりに fengari.lauxlib.luaL_newstate() で 生成した lua_State を渡しても良い。
-
fengari.to_luastring() は fengari 独自の API で、 JavaScript の文字列を fengari Lua VM IF で利用可能な文字列に変換する。
- fengari Lua VM IF の文字列は JavaScript の文字列とは異なり、 Uint8Array を利用している。
print( (function() return 1 + 1; end)() )
は、 1 + 1 を実行する関数を定義し、それを実行し、結果を print() で出力している。
このように fengari-web Lua VM IF に文字列を渡す場合、 fengari.to_luastring() で文字列データを変換して渡す 必要がある。
fengari-web Lua VM IF から文字列を取得する
Lua VM IF の lua_typename() は、指定の Lua 値のタイプに対応する文字列を返す関数である。
これを fengari-web で console.log() に出力するには、次のようになる。
console.log( fengari.to_jsstring( fengari.lua.lua_typename( fengari.L, fengari.lua.LUA_TTABLE ) ) )
-
fengari.lua.lua_typename() を実行する
- LUA の定数の LUA_TTABLE は fengari.lua で定義される
- fengari.lua.lua_typename() は文字列を返すが、 これは Lua VM の文字列であるため console.log() で出力するには JavaScript の文字列に変換する必要がある。
- fengari.to_jsstring() は、上記の目的のための文字列変換を行なっている。
このように、fengari-web Lua VM IF から文字列を取得した場合、 fengari.to_jsstring() で文字列データを変換する 必要がある。
JavaScript から fengari-web Lua VM IF に JSON オブジェクトを渡す
Lua VM IF を利用して Lua の関数コールを行なうには、Lua VM のスタックを利用する。 Lua の関数コールの引数をセットするには、 lua_pushnumber() などを使う。 セットする値がプリミティブな数値や文字列であれば簡単だが、 JSON オブジェクトをセットするような場合、lua_newtable() などを駆使しなければならない。
この面倒な作業を肩代わりしてくれるのが interop.push() だ。
fengari.lauxlib.luaL_loadstring( fengari.L, fengari.to_luastring( `
local arg = ...
for key, val in pairs( arg ) do
print( key, val )
end
`))
fengari.interop.push( fengari.L, { "a":1, "b":2 } );
fengari.lua.lua_call( fengari.L, 1, 0 );
上記サンプルは { "a":1, "b":2 }
を interop.push() でスタックに積み、
Lua の for によってその値の key, val を列挙して print している。